2024年06月25日更新
犬の膝蓋骨脱臼〜歩き方に異常が出る〜
犬の膝蓋骨脱臼 (通称:パテラ)とは、犬において比較的多く見られる整形外科的疾患の一つです。膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨(膝のお皿)が正常な位置からずれることによって発生し、犬の歩行や日常生活に影響を及ぼすため、早期に正しい治療を行うことが大切です。
今回は、犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)について、症状、治療方法や予防方法、当院におけるCT画像診断について詳しく解説します。
原因
犬の膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が滑車溝と呼ばれる「溝」から外れてしまう状態を指します。
主な原因には先天的要因と後天的要因があり、先天的要因では特にチワワやポメラニアン、ヨークシャーテリアなどの小型犬に先天的な傾向が見られます。また、膝関節の溝が浅い、または膝蓋骨の位置が異常である場合、膝蓋骨は容易に脱臼しやすくなります。
後天的要因としては、外傷が主な原因です。膝周辺への強い衝撃や高所からの着地などが原因で、膝蓋骨やその周辺の組織が損傷し、脱臼を引き起こすことがあります。また、肥満は膝関節への過剰な負荷をもたらし、脱臼のリスクを高める要因となります。
内方脱臼と外方脱臼
犬の膝蓋骨脱臼には、主に「内方脱臼」と「外方脱臼」の2種類に分類されます。
・内方脱臼
膝蓋骨が内側にずれる状態を指します。これは小型犬で最も一般的に見られるタイプであり、しばしば遺伝的な要因が関係しています。内方脱臼は、脚の使い方や歩行パターンに影響を及ぼすことがあり、未治療の場合、関節の変形や慢性的な痛みを引き起こす可能性があります。
・外方脱臼
膝蓋骨が外側にずれている状態で、大型犬において比較的まれに見られます。外傷や異常な筋肉の引きが原因で発生することが多く、犬の足の安定性に重大な影響を与える可能性があります。
症状
初期の段階では痛みなどの症状がみられないことも多く、飼い主様が気が付かないケースも珍しくありません。
しかし進行すると、痛みや不快感から片足で跳ねるような動き(ケンケン歩き)をする、または足を挙げる様子がみられます。
また、日常生活中に脱臼したり正常な位置に戻ったりを繰り返している場合、犬は一時的に跛行を示し、その後自然に歩行が正常に戻ることがあります。
重度の脱臼では、犬が慢性的な痛みを感じるため、散歩に行きたがらなくなったり走ることができなくなったりと、活動の低下がみられます。
診断
膝蓋骨脱臼が疑われる場合は、膝蓋骨を動かして脱臼の容易さを確認します。膝蓋骨が簡単に脱臼し、または正しい位置に戻るかどうかを検査することで、脱臼の程度を判断します。
また、さらに詳しく診るために、歩行検査を行って歩様の状態を確認したり、レントゲン検査を行ったりします。レントゲン検査では、膝蓋骨の位置や溝の深さ、関節の損傷や変形の有無を確認します。
重度の脱臼や、脱臼に伴う骨の変形が疑われる場合は、CTスキャンやMRIなどの他の画像診断技術を使用することもあります。
当院におけるCT画像診断について
この写真は実際の膝蓋骨脱臼のワンちゃんのCT画像を3D構築したものです。右足の膝蓋骨が内側に脱臼していることがわかります。(写真①、②)
さらに右足に着目して骨の形態を観察すると、大腿骨に対して脛骨が内側に向いています。(写真③)これは、膝蓋骨脱臼のワンちゃんの多くに認められる状態です。
当院ではこのようにCT検査にて骨の変形や角度を測定し、手術方法の決定をおこなっています。
術後のCT画像では膝蓋骨が正常の位置に収まり、溝がより深くなっています。(写真④)また大腿骨と脛骨の向きが正面に向き、正常な骨格に近づいています。(写真⑤)
その他にも、重度な骨変形に対しての矯正などもCT検査は必要になってきます。
治療法
軽度の脱臼で、症状が少ない場合は、保存療法が適用されます。これには、抗炎症薬の使用や体重管理、運動制限による治療を行います。
しかし、脱臼が頻繁に発生するか、症状が重度の場合、外科手術を推奨します。
外科手術の目的は、膝蓋骨を正しい位置に安定させ、再脱臼を防ぐことです。手術方法には、膝蓋骨の溝を深く掘る手術(滑車造溝術)や脛骨粗面を切断して適切な位置に移動させる手術(脛骨粗面転移術)、縫工筋や内側広筋を一部外し緩める手術(内側支帯リリース術)などがあります。
そして手術後は、安静の保持、徐々に活動を再開するためのリハビリテーションが必要になることがあります。
予防方法
先天的な膝蓋骨脱臼は予防が難しいものの、重症化を防いだり、後天的な膝蓋骨脱臼をある程度予防したりすることはできます。
まず、体重管理は非常に重要です。肥満は膝関節への過度の圧力をもたらし、脱臼のリスクを高めるため、日頃からおやつの与えすぎには気をつけ、適度な運動を心がけるようにしましょう。
また、日常生活の中で愛犬が滑って膝に不必要な負担をかけないようにすることも重要です。滑りやすい床にはマットやラグを敷いたり、定期的に爪や足裏の毛はこまめにカットしたりすることで、膝関節への負担を軽減しましょう。
さらに、ソファーなど高い場所からの飛び下りも膝蓋骨脱臼のリスクを高めてしまいます。そのため、スロープや階段を設置したり、ソファーを低いものに変えたりすることも有効です。
まとめ
膝蓋骨脱臼は、遺伝的要因によるものが多いですが、体重管理をしたり、生活面を工夫したりすることである程度予防することができます。また、定期的な健康診断はもちろん、飼い主様は日頃から愛犬の歩行の様子を確認し、異常を感じたらすぐに検査を受けるようにしましょう。
最後になりますが、
私たちが目指すのは、ただの「治療」ではありません。
あなたの大切な家族の一員である子供たち(愛犬、愛猫)が、健康で笑顔溢れる毎日を送るための「ケア」です。
人間医療の高い精度と専門性を動物医療に取り入れ、子供たち(愛犬、愛猫)にとって最良のケアを提供することをお約束します。
当院の想いと設備について
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